ミズバショウ 串田孫一 深夜独りで、懐中電灯を持ち 水芭蕉の咲く湿地のわきの 小径を歩いて行くと 白い炎が限りなく続いていた。 それは、時々青味を帯び 更に微かな声さえ聞こえて来るように思われた。 そのために幾度か立ち止まって耳を澄ましたが もちろんその意味の通じるような声ではなかった。 妄想をはっきりと否定するのには そこに明りをあてるだけで充分だった。 昼の間はただ白く見えている 仏焔苞(ぶつえんほう)が影を映す壁になり 裏に回って見れば 影をぼんやりと透かす、薄い幕になった。 湿地の匂いも加わって 再び私は幻の世界に招かれ 白い炎はじわじわと集まって来るようだった。
サトイモ科の多年草、本州中部以北の湿地または水辺、北海道では平地の 湿原に群生している。関東地方では尾瀬沼が有名、5〜6月ごろ20センチくらいの太い花穂が出るが白い大きな仏焔苞(ぶつえんほう)に 包まれている。苞の方が白い帆のようで美しい。ひとつひとつの花は小さく黄緑色で、花軸に密集している。花が終わると、バショウに 似た大きな葉が伸びてくることからこの名がある。